2014年度・地域実践演習Ⅲは、Ⅰ、Ⅱとは異なり、遠隔地の和歌山県新宮市をフィールドとして予め設定されたものであった。遠いところ、中山間地域というところに魅力を感じることもあったが、遠隔の地域が抱える問題や地域が持つ可能性を知るということが基本方針としてあった。その枠組みの中で、各自の興味・関心に応じて構成した小グループでの活動を基礎とし、課題の発見やテーマの設定から、課題認知、提案へのプロセスまでを全て受講生主体で行うという、極めて自由度の高い演習を展開した。半期の毎週の演習と2回の新宮合宿(6月21日~22日、7月20日~21日)での各自の経験を経て、まとめとなる3回目(8月5日~8日)の新宮合宿では中山間地域の再生、子育て・教育、地域活性、観光、災害復興の5班編成で調査・活動を行った。実際に地域に入り活動をするという貴重な経験を通して、地域が持つパワーを体感し、答えの見えにくい問いに自主的にぶつかっていく姿勢を身に付けたといえる。今後は継続的な調査も視野に入れつつ、受講生それぞれの研究や実践に今回の経験を活かしていきたい。

授業の経過と成果

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スタートアップから班編成まで

第1回合宿まで

主担当教員が地理学であったこともあり、地域を知ることとして、最初の演習では地図の見方や検索の仕方を教わることになる。その後、新宮市とはどのような地域なのか知ることに重点を置くこととし、何も知らない地域の情報収集にあたることになる。まずは新宮市における、紀伊半島大水害の被害状況や過疎地域、新しいツーリズムなどといった多くの観点からの先行研究を輪読した。

これらを踏まえて、5月中旬以降からの演習では、地元新聞(熊野新聞、紀南新聞)の記事をweb検索することにより、各々が興味をもった新宮市についての記事を集め、話し合った。ここから、「観光」・「災害」・「まちおこし/NPO」・「交通」という大きく4つのテーマが浮かび上がり、とりあえず第1回合宿における調査班が編成された。また第1回合宿の初日が、たまたま新宮市在住で大逆事件に関わった高木顕明氏の百回忌法要(遠松忌)にあたり、新宮市内や全国各地から多くの人々が浄泉寺に参列すると聞き、これに参加することになった。大逆事件新宮グループについても下調べを行ないつつ、そこでいろんな人との出会いを期待した。

第1回合宿・その後

第1回合宿では、全体の活動として、まず高木顕明氏の法要に参列した。もくろみ通り、参列していた新宮市長を始めとする、新宮市に関わっている多くの方にお話を伺うことが出来た。また、「観光」班がアポを取っていた新宮観光ガイドの会の方に、大逆事件と新宮についてのスタディツアーをしていただき、全員参加で世界遺産満載の新宮の魅力を学んだ。これ以外は、各班に分かれて活動した。第1回合宿を通して、初めて新宮市を訪れたことで、百聞は一見に如かずではないが、座学では学べないさまざまな新宮を実感することができた。 

合宿中のミーティングや、帰阪後の演習を通じて、とりあえずの班はそれぞれに再編成されることになった。「まちおこし/NPO」班は、二手に分かれ、NPO法人や商店街の方にひたすら取材を行った班は、ヒアリングはよい経験となったものの次の方向性が見いだせなかった。しかし、第1回合宿で聞き取りをさせていただいた方々がきっかけとなり、特に仲ノ町商店街副理事の方と出会ったことで、商店街に焦点を合わせた「地域活性」班が独り立ちした。もう一方の聞き取り班は、社会福祉協議会の方と出会ったことで、地域福祉を知ることに焦点を合わせた「福祉」班が新たに出来た。

「災害」班と「観光」班は第1回合宿での調査や出会いで、関心の継続は可能となり、第2回合宿でも活動を続けることとなった。「観光」班は新宮観光ガイドの会の方と出会ったのをきっかけとして、新宮市観光協会と関わっていくこととなり、今後多くの関係者とのコンタクトが見込まれることになった。「災害」班は、紀伊半島大水害での被災状況や、市内各地で防災意識の市民への聞き取りをひたすら行った。また、第2回合宿からは新宮市の中山間地域でも活動できることになっていたので、その方面への関心をもっていたメンバーが「中山間地域の再生」班として本格稼働し、聞き取りを行うことになった。このように、第2回合宿に向けて「地域活性」「観光」「中山間地域の再生」「災害復興」「福祉」の5班構成となり、それぞれ活動していくこととなった。

班編成から成果報告まで

h26-gatsun3-walking_map 【レポート】地域活性~商店街の回遊性を高める~

【成  果】新宮今昔Walking Map

h26-gatsun3-heritage_pamphlet 【レポート】観光~新しいツーリズムの実践~

【成  果】新宮市観光パンフレット(発行:新宮市観光協会)

IMG_0001 【レポート】中山間地域再生~その課題を知る~
h26-gatsun3-bosai_map 【レポート】災害復興~災害の記憶を残す~

【成  果】台風12号(2011年)佐野区被災状況マップ

h26-gatsun3-extra_education 【レポート】子育て・教育~先進的な子育て環境に学ぶ~

【成  果】「新宮市における放課後保育の多様性」

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合宿の実施および演習の支援体制

合宿の実施

まず3回の合宿の日程調整が大変であった。土曜、日曜で全員の合う日程がなかなか定まらず、第1回合宿も、地元との調整もあり、当初5月と予定されていたものが、6月下旬となった。地元の受け入れ体制は、担当教員の地元とのつながりで、市内の児童館(生涯学習課管轄)の大部屋をお借りして3回の合宿を行うことができた。

食事は近くのスーパーマーケットを利用して、毎食数名ずつ調理係となり夕食、朝食1000円の範囲で自炊した。「中山間地域の再生」班のフィールドとなった新宮市高田での調査を終えたグループがいただいてきた、鹿肉や猪肉を食べたこともあった。食後の長時間のミーティングで報告と意見を熱くかわし、まさに集団生活、合宿であった。活動以外の時間には、「観光」班の話を聞いた他のグループの学生が、世界遺産であり御灯祭りで有名な神倉神社に皆で参詣というか登攀したり、ときどき「激励」に来る地元の人との語らいもいい体験となった。児童館に来た小学生とコミュニケーションをとる機会などもあった。同時に、生活科学部のQOL演習の学生さんたちも担当教員とともに、同じ期間に合宿を行い、上回生との交流もできた。合宿に加勢する複数の教員と、院生TAの協力も仰ぎ、また地元出身の院生の方の毎回の参加もあり、こうした活動時間外の食事や団らんが、本演習において大きなコミュニケーションの場であったといえる。

支援体制 –謝辞

本演習を行うにあたり、新宮市での活動を全面的にサポートしていただいた新宮市生涯学習課、浮島児童館、また、受講生の活動に協力していただいた新宮市の皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。また工学研究科や文学研究科のTAのみなさま、地元新宮出身の理学研究科の院生の方にもたいへんいろいろと教えていただき、また調査をバックアップしていただき、あつくお礼申し上げます。

担当教員が授業を振り返って

h26-gatsun3-1担当教員を代表して、水内が演習の振り返りの短文を記す。地域福利のテーマでの演習枠であったが、大阪市を遠隔地からみる視点の重要性を以前から認識していた。そのことを意識しつつ2000年より13年間新宮市でもフィールドを持ち続けていたので、冒険であったが、遠隔地の演習を合宿を交えて構想した。やはり受講希望にこの遠隔地、中山間地域という魅力はあったと思われ、文系、理系の6学部から12名の参加で、実にバランスのよい構成となった。

これまで新宮では、個人のつながりで、院生や学部生それぞれにテーマを設定して調査合宿をずっとおこなってきた。院生には論文としてのアウトプットを、学部生は2回生の野外調査実習、そして新宮がらみの卒論を書くという形をずっと続けてきた。予め私がもっているネットワークや、福祉や雇用関係、地域の記憶の掘り起こしといったテーマ設定の中で、これはこれで有意義なアウトカムを出してきた。2013年度の総務省の域学連携事業に新宮市が採択されたことで、この事業展開において、地理の3回生の実習でも、担当の祖田准教授の指導のもと、助っ人の形で入ることになったが、従来の方式を踏襲した。敷かれたレールに乗ってより深く調査して論文調にまとめてもらったという形であった。

しかし今回の地域実践演習は様々な学部からなる1回生が対象であり、2015年度よりスタートするコミュニティ再生副専攻のコア科目(試行)として、地域に入り、ガツンと地域の息吹を感じてくるという主旨であったため、今までの方式では進められないことは承知していた。とはいえ、演習の最初あたりでは、そのへんのレールでとりあえず走ってみるような試行をしてみたが、5月中旬より、やはり演習の主旨にのっとり、学生に全面的に調査設計をまかせることにした。

上記で紹介されているように、さまざまな試行錯誤を繰り返す班もあったが、それぞれにアウトカムを短期間のうちに出したことは、演習を企画した者として充実感を持っている。3回の合宿はやってよかった。次回も来る、継続して関わるという関係性が、地元での豊かなコミュニケーションを生みだしたと思われる。またヒアリングのTPO、集団の合宿での役割分担や指揮系統、ミーティングでのプレゼンのやり方、議論の仕方、院生TAとの絶妙な協働関係など、学ぶことも多かったのではなかろうか。欲を言えばたくさんあるが、1回生としてやり遂げた感は全員有しているようで、うれしい限りである。

今後一部の受講生は、2回生以降のアゴラセミナーに参加してゆき、実践や調査、そして卒論に至る研究の領域にも入っていく。地域づくりの実践と、それを研究するという対極の中で、大学としてどのような貢献を地元に提示できるか、教員としては悩ましいところではあるが、教育として、こうした生き生きした学生が育っていける環境づくりに引き続き努力したい。

【担当教員】
大阪市立大学 都市研究プラザ 水内 俊雄/大学院文学研究科 祖田 亮次/生活科学研究科 西川 禎一/工学研究科 佐久間 康富