本フォーラムのベースになっているのは、大阪市立大学の平成25年度「特色となる教育体制への支援事業」に選定された「『木域学』による地域・環境デザイン力養成プログラム ? 過疎化の進行する林産地(紀伊半島南部地域/拠点:十津川村)と三研究科(工学・文学・生活科学)との連携による、木を主題にした地域学の開発・実践」の教育・研究チームの実践です。この事業はユニークな教育の制度設計につながる試みに対して大学が支援するもので、今年度に申請し、採択されました。今後はCOC(文科省の地〈知〉の拠点整備事業)の教育プログラムへと展開してゆく予定です。

 

 これまでは個々の教員が十津川村と多様なかかわりを続けてきましたが、組織的に取り組むのは初めてのことでした。「木域学」とは耳慣れぬ言葉ですが、水域とか海域と同じように一般に流布させようともくろんでおります。十津川村を含む紀伊半島南部の自然、文化、産業など、生にかかわる総体が「木」と大きく関係していることを、学生たちに現場で感じ取り、学習してもらいたいという目標をもって本プログラムは開始されました。それぞれの教員がもっている専門性と、十津川村の抱えている課題、問題とが接合される地点が教育の現場となっています。教育プログラムとして走らせる限りにおいて、大学は地域から多くの恩恵を与えていただくことになりますが、逆に学生の参入が地域に何をもたらすのか、大学への期待は何かという点についても、論議を深めることができました。

 

 大阪市立大学と大阪府立大学が共同で取り組むCOC事業は、大阪の再生・発展のために骨身を惜しまず尽力するという旗印のもと、そのために新たに創案された教育プログラムを投入することによって成立していますが、それではなぜ十津川村という比較的遠隔の地域の事例を提示しようとしたのでしょうか? それは、地域(=大阪)の問題を考えるためには、都市と地方の関係性から生じる問題群への着目抜きにはアプローチできない、と考えるからです。都市と地方との間の格差、搾取、分断、干渉などといった通り一遍の見方ではなく、新たな視点を据えて都市と地方の連繋をつくりだし、いま日本を覆っている諸問題に対して手を携えて取り組んでいける知のストックを築かねばならないと思うのです。都市と地方の変革のために大学は何ができるのか、大学の変革のために地域は何を提供できるのか。今回のフォーラムでは、こういった問いかけの周辺を廻ることになりました。具体的な解決の処方箋を見出すことは安易にできるものではありません。つまり、都市と地方という二項対立を際立たせるのではなく、そこに共通して横たわる深い悩みや喜びを俯瞰し明察できる眼差しと知恵、技術を獲得することを目指したいと思うのです。

 

フォーラム当日は、山形、東京、そして長野と全国からお集まりの150名の聴衆によって、小さなホールは大盛況となりました。同時にそれは、私たちが取り扱おうとしている問題意識の普遍性を示しているからではないかと自負しております。来場された多くの聴衆の期待に応えることができたのかどうか、私たちは冷静に振り返り、次のステップへの進みたいと考えております。

 

中川 眞(COC地域・文化資源分野代表、大学院文学研究科教授)

 

プログラム

開会挨拶 西澤 良記 (大阪市立大学 学長)
第 1 部 十津川の暮らしと魅力
更谷 慈禧 (十津川村 村長)
西岡  潔 (写真家)
第 2 部 林業の未来 - 木域学の提案-
乾  耕輔(十津川村建設課主幹)
黒川 惠史(十津川村林業振興顧問)
横山 俊祐(大阪市立大学工学研究科教授)
第 3 部 文化資源による地域振興
増谷 良一(十津川村観光振興課長)
中川  眞(大阪市立大学文学研究科教授)
三浦  研(大阪市立大学生活科学研究科教授)
パネルディスカッション 地域再生と大学
更谷 慈禧
片岡 利博(大阪市都市整備局企画部 課長)
中川  眞・横山 俊祐・三浦  研
司会 中村  治(大阪府立大学人間社会学部教授)
閉会挨拶 宮野 道雄(大阪市立大学副学長)
ポスター展示