【活動報告】地域実践演習Ⅲ、和歌山県日高川町寒川地区スタディーツアー

 昨今、過疎化や少子化による問題の改善、解決が特に地方において求められています。そこで、地方の中山間地域において、現状を把握し課題を発見し、どのような行動に移すべきかを考えるために、和歌山県日高川町寒川地区にて、計3回の巡検を行うことにしました。巡検は、各自の興味や関心に応じて構成した4班で行いました。

授業内容

 第一回巡検までの数回の授業では、各自の関心や興味を洗い出し、巡検において何を調査するのかの型枠の作成と、日程調整を行いました。その結果、当初はUIJターン、祭、林業、農業、川など、複数の項目がリストアップされましたが、三回の巡検を通して、大きくIターン、Uターン、祭、住宅地図の4班にまとまることとなりました。第一回巡検を経て、寒川という地域のパワフルな人との出会いから、どの班においても、「人」が今回の授業においてカギとなると感じました。また、1994年、2004年、2015年の住宅地図を入手したことで、住宅地図班が発足しました。そして第二回巡検にむけて班が整理され、4班となりました。住宅地図班は、空き家化から、人の変遷を探ることになりました。Iターン班は第一回巡検に引き続き、Iターン者の一人である森林組合の方に、Uターン班は、身近にUターン者がいる方などに、祭班は、ほたる保存会の会長に聞き取りを行いました。その後第三回巡検では、祭班はUターン班と合流し、三班体制で最後の聞き取りを行いました。まとめは、各班ともにレポートによる成果と考察の文字化によって行いました。全講義日程終了後も、COCフォーラムの発表にむけたスライド作成や講義外巡検に向けてのミーティングが複数回行われました。

各班のレポート

① 住宅地図班(太田遥、和田崇史、宮下凪)

①住宅地図班 ② Iターン班 ③ Uターン班 ④ 祭り班

【目的1】

 1965年からの各小字別の人口動態の見える化。統計センターで入手した小字別人口動態は7区分されていることが判明。現実には13集落あるが、この7区分は統計単位として最小のものであり、このレベルで、1965年から推移を統計でみると同時に、各集落における1世帯毎の動きを、1980年代から現在に至るまで、区長さんの協力による住宅地図と現地調査による復元作業をおこなっている。

【調査内容1】  (補足調査にて土井地区も終了している)

 6割がた復元が終わっており、残るは地区内最大人口を有する土井地区の調査となる。この調査における調査シートは添付の通りであり、世帯の転出、転入、世帯の再生産の可能性などを過去からさかのぼることができ、集落の今後の予想も可能となっている。

【経過と所見】

 私たちのチームでは、「地域課題を知る」という地域実践演習のもと、住宅地図(下図)と聞き取りを通じて、小字単位地区の空き家や入居者の変遷を整理するという目的を掲げた。まず、聞き取りにあたっては、地元の区長のみなさんに地図データを細かく分けた地区ごとに1995年、2004年、2015年の3年分の移り変わりを見ていただきながら、「住宅地図聞き取りシート」(下図)を作成、使用し、空き家の状況、職業、子どもの転出入などについて詳細に伺った。さらに、百聞は一見にしかずということで、実際に現地を歩いて回り、出会った方たちに個別にお話を伺った。

 そこから見えてきたものは、まず、人口減少と空き家化の実態を改めて確認したことである。しかし、「つながりの強さ」も実感した。つまり、住民同士が社会的にも精神的にも密接に関わっており、たとえば、同じ地域に住む人の近況を知っていたり、話し相手になったりとお互いに支え合っている状況が見てとれた。

 さらに、調査した地区では昔から多面的農業が営まれていた、ということも明らかになった。基本的に山仕事をしている方がほかに椎茸や梅、楮にシュロなどさまざまな種類にわたって農業を営んでいたということである。しかし、近年の高齢化や少子化の影響、農作物の獣害、梅の値段低下など様々なファクターにより梅の耕作地放棄、地区の今後を担っていく若手の不足、高齢者の自らの暮らしに対する安心感の低下などがうかがわれた。しかし、若者の流出にあっては、地域を離れているとしても近くに住んでいる、いわゆる近居の状態であり、これは地元にとって希望となりうると感じた。

 住宅地図を分析することによって、高齢化と若者の流出が改めて明らかとなった。その上で、今後この地区に求められていくのは、この人口減少への対応であろう。


② Iターン班 (山本ひろと、新井健太)

①住宅地図班 ② Iターン班 ③ Uターン班 ④ 祭り班

【目的2】みどりの雇用にともなうIターン者が人口動態にどのような影響を与えたか、また地域の持続的営みにどれほど寄与したかの解明

 グリーンキーパーから、みどりの雇用に至る雇用者及びその世帯員の悉皆調査をもとにした、1994年から現在までの年度末人口の確定を行い、世帯主雇用、配偶者雇用、子どもの保育、教育、就職などを、オリジンとデスティネーションを確認しながら、人口動態を明らかにする。

【調査内容2】

 森林組合長の協力を得て、Iターン者の動向を追うことが可能となった。今回の調査ではこのIターン事例の深堀作業から構成された。調査1とも連動

【経過と所見】

 地方の少子化、過疎化を考える際に、「Iターン」はひとつのキーワードとなる。今回の寒川巡検にあたってのIターン実態調査チームのねらいは、寒川、ひいては美山村にどのような人がIターンしており、その理由は何なのか、そしてIターン者が地域にもたらす力を知り、考察することであった。全三回の巡検では、主に森林組合の方を中心とする聞き取り調査を行った。その理由としては、第一回巡検時の聞き取りから、数人を除いて、ほぼ全てのIターン者が、グリーンキーパー制度または緑の雇用制度によるという情報を得たからである。そこで私たちは、第二回、第三回と引き続き森林組合の方に聞き取りを行った。

 聞き取りから得た情報をまとめると、美山村においては一時期のグリーンキーパー制度または緑の雇用制度によるものを除くIターン者は殆どいないという事であった。しかし、グリーンキーパー制度または緑の雇用制度によるIターン者は、世帯にして約30世帯(独身も含む)と、人口減少の進む美山村においては十分なインパクトとなっていることが分かった。また、地域にもたらす力については巡検中にはあまり深く触れることが出来なかったが、1つだけ得た情報として、Iターン者の中でも、積極的に地域に関わり、何かしらをもたらそうと率先してアクションを起こしている人と、一住民としてはなっているが、地域に対する意識がそれほど強くはない人がいるということだった。

 結果としては、Iターン者の概要と理由などについては概ね把握できたが、彼/彼女らが地域にもたらす力については十分には知ることが出来なったので、ねらいの達成率は約5割ほどだろう。巡検の結果から、以降はIターン者が地域にもたらす力について、より具体的な話を伺えればと考えている。そして、Iターン者を増やし、定着していくためにはどのような方法があるのかを、模索していきたい。


③ Uターン班 (水野怜香、柿本健児、ツォゴフー・ムングンソロ)

①住宅地図班 ② Iターン班 ③ Uターン班 ④ 祭り班

【目的3】Uターン者の実態と地域に及ぼす影響

 Uターンの定義を少々広めに捉え、1時間以内に近居する事例を積極的に評価することとして、そうした方々の事例収集に努める。近居をベースにした地域の持続的形成の可能性が十分ある地域であることを証明する。特に旧中津川村までや一部川辺町あたりまでを考える。御坊市ももちろん視野にいれて、近居のメリットを確認、今後の地域のありかたの指針としたい。

【調査内容3】

 さらに近居Uターン事例を集める。生活研究グループの女性の方々中心に、全体情報の情報収集を続ける。これは調査1と連動している。

【経過と所見】

 Uターン者の増加は集落消滅を食い止める鍵となる。だが、Uターン者は年々減少している。そこで、Uターンに必要な条件について調査した。実際にUターンしてきた方々と子供世代がUターンをしてきた方を中心に、年齢や職業、Uターンのきっかけなどを聞いた。また、わかる範囲で、寒川に住んでいる高齢者の息子、娘やその同級生が今どうしているかという情報も得た。職がないなどの理由で寒川に戻る者はほぼいなかった一方で、日高川町内(旧美山村川原、初湯川など)に住むものは多数いることがわかった。

 Uターンしてきた世代の方々の中には20代の方もいたが、基本的に40歳代以上が中心で、若者が移り住んでくるという感じではなかった。ここでの課題は、生活の糧となるような仕事がないこと、子育ての施設などが十分でないことであり、若い世代が積極的にUターンするには厳しい環境であることがわかった。子供世代がUターンしてくる親世代の方々は高齢者が中心で、Uターンの動き自体は歓迎しており、比較的若い世代が移り住んできてくれるのは素直にうれしいということであった。

 総じて、住民はUターンを歓迎しているが、若い世代が移り住むには子育て環境など厳しい現状があり、またこれからどう発展させるかではなく、どう今のレベルを維持するか、またどう終わらせるかを考えている人もいた。

 提案としては、範囲を広げたUターン、親子間の「近居」を提唱したい。また、近居については、メリットとして、親側としては、「一人では行えないことを手伝ってもらえる」、「孫の顔が見られる」、子ども側では、「一緒にご飯を食べるなど、関係が希薄にならない」などがあがった一方で、デメリットはあがらなかった。これより、「スープの冷めない距離」ではなく、「車で15分ほどで気軽に会える距離」という親子関係を築くことも重要であると思われる。


④ 祭り班 (岡田駿、新井健太)

①住宅地図班 ② Iターン班 ③ Uターン班 ④ 祭り班

【経過と所見】

 私たちの班は寒川地区においてどのような方々が地域活性化に関わって活躍されているのかを調査するために、2つの「祭り」に着目し、聞き取りを行った。

 第1回目の調査では、11月の初頭に行われる寒川祭について聞き取りを行った。寒川祭は神楽の舞獅子が行われる古式ゆかしい祭りで、江戸時代からの伝統がある。祭儀にあたり、役者や一般参拝者は酒気を帯びない厳粛な祭りとして有名であり、県の無形民俗文化財に指定されている。祭りは以前2日間にわたって行われていたが、現在では人手不足の影響もあって1日で行われている。和歌山県内外からの来訪者が多く、地域住民のみならずUターン者やIターン者、近居親族が一つになって祭りの担い手となっている。

 第2回目の調査では、寒川ほたる祭りについて聞き取りを行った。この祭りは2011年9月の紀伊半島大水害によって激減したほたるの復活を目的に開催され、聞き取りでは、ほたる保存会会長を先頭に地域住民の意思と団結力の高さに触れることができた。ほたる祭りには地域おこし協力隊やIターン者による各種企画が開催されており、寒川祭を上回る来訪者を数えている。今年度は悲願であったほたるの繁殖に成功し、大いに期待が集まっている。

 このように、「祭り」というものが多様な住民と世代間をつなぐ存在となっており、集落外に住む「近居」も含めた地域のつながりを生み出している。このように、寒川地区の今後の発展は祭りの存続が大きなカギとなっていると思われる。